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隣家物上げ成功体験記

FAP

不動産の「物上げ」の解説記事には、「個人でも可能」と説明されている。しかし、不動産会社ではない一般人が実際に物上げを成功させるのは難しいと思っている方も多いのではないだろうか?

▼不動産の「物上げ」の意味や方法を詳しく知りたい方はまずこちらから
不動産の物上げとは?成功させるための方法と注意点を紹介|空家ベース (sora-ie.jp)

 

実は、僕FAPは個人で「物上げ」を2回成功させたことがある。しかも、解説記事で紹介されている、登記簿謄本を取り寄せて所有者に連絡を取り…という一般的な物上げの手法とは異なる方法での物上げだ。
本コラムでは実際に「物上げ」(※)をどのように成功させたのか?僕の経験談をご紹介したい。
(※)僕は不動産業者ではないため、本コラムにおける「物上げ」の意味は、売却はせず賃貸物件とする目的で、不動産会社を通さず個人間のやり取りのみで物件を購入できたことを指す。

 

1. 成功体験の共通点・相違点
2回とも全く異なる経緯で物上げを成功させたのだが、下記のような共通点もある。
① いずれも、既に所有していたボロ戸建ての隣地に立っているボロ戸建てだった
② 隣家を購入できると、すでに所有していたボロ戸建ての価値が上がる物件だった
③ 購入の話がまとまった後、売買契約締結まで含めてすべて個人間で手続きを完結させた

一方で、2回の成功例には以下の明確な違いがある。
① 一軒は、元の所有者と仲良くなり物上げに至ったが、もう一軒は契約手続きまで一度も会ったことがない方だった
② 一軒は、家としての価値が高く賃貸客付けするために購入した一方、もう一軒はボロボロの物件を購入して隣家の駐車場にするために解体前提で購入した

 

2. 初めての物上げ体験

初めての物上げは群馬県の所有物件(灰色の「所有物件」)の隣家(黄色の「物上げ物件」)だった。

もともと所有していた物件は上図赤字の「私道」部分の持分がなく再建築不可の物件で、私道の持分権は物上げ物件にお住まいのおばあちゃんと、奥の空き地の所有企業が1/2ずつ保有していた。
所有物件及び所有地をセットで購入し、通行掘削の許可をしてもらうためにご挨拶に伺った際、一人暮らしのおばあちゃんと初対面。通行許可は口頭の許可をもらえたが、「ハンコを押すのは怖い」ということで、許可書まで得ることはできなかった。
本所有物件はDIYに非常に苦戦し、1年近く毎週末通っていたので、このおばあちゃんとも自然と立ち話をする仲になった。

 

【所有物件(左)と物上げ物件(右)。中央に通るのが持分権のなかった私道】

このおばあちゃんは、隣の家がいくらで売られたのか、リフォームはどのようにするのか、とても気にしている様子だった。実際に「いくらで買ったの?」と聞かれたときは、「まぁ,そこそこのお値段で…。」とお茶を濁しながら、今後行うDIYの内容を報告したりしていた。
そうこうして約1年がたった頃。おばあちゃんが高齢者施設に転居することを決めたと報告してくれたのだ。
「ご自宅はどうされる予定なのですか?」と聞くと、売ることを考えているという。この時すでに喉から手が出るほど「買いたい!!」と思っていたが、ポーカーフェイスで、「売るなら不動産会社各社に査定してもらうといいですよ。」とアドバイスをして差し上げた。
この時、おばあちゃんは「あなたならいくらで買う?」と聞いてくれたのだが、敢えてこのタイミングでは口が裂けてでも本音は言わない。
「中を拝見しないと判断はできませんねぇ。築年数もたっていると思うので、かなりリフォーム費用はかかるでしょうし…。」と、ここでもお茶を濁す。
まずは不動産会社に相談してみることを強くお勧めした。

 

なぜ、僕がこのタイミングで「ぜひ買わせてください!!」と言わなかったのか?
理由は4つある。
① 本物件の外観上の価値や僕の財政状況から、高い金額は提示できない。
② いきなり安い値段を提示しても、おばあちゃん自身が物件の価値を理解していなければ安価な値段で自分の家を売ってもらえる可能性は低い。
③ 隣家である所有物件の状態からしても、物上げ物件の状態が良いとは考えにくかったため、不動産業者も高い金額を提示しないのではないかと踏んだ。
④ 最初に金額を提示すると、他会社に引き合いに出され「アンカー効果」が働いてしまう。

 

次に会ったとき、おばあちゃんは各社不動産業者に査定をしてもらったと報告してくれた。
その上で、最後に僕に「中見てみる?」と内見のチャンスをくれた。
僕は各社の不動産業者がいくらで査定したのかその金額は把握していなかったが、中を拝見した上で(予想通り傾きがあり、和式便所、残置物あり)、「僕なら150万円で購入します。」と精一杯の金額をお伝えした。
すると、各社不動産業者が提示した金額と同程度だったこと、おばあちゃんの考えていた最低ラインには乗れていたことから、最終的に「知っている人に自分の家を預けたい。」ということで僕に売ることを決めてくれたのだ。
しかし、その後、老人ホームに移住したおばあちゃんは、お仲間と持ち家の売却の話になり、「自分の家の価格が他の人の価格より安い」と思ったらしく、「もう少し値段何とかならない?」との相談が舞い込むことに。
「売買合意後、契約締結は可及的速やかに行うべき」との教訓を得ることになった。
そこで妥協案として、おばあちゃんが長嶋茂雄の大ファンだったことを引き合いに出し、長嶋の背番号の3万円を上乗せして153万円で再度合意が取れた。
今度は翻意されないうちに急いで契約締結日を約束し、司法書士を手配して個人間で売買契約を締結した。こうして僕にとって初めての物上げが成功した。
普段よりも少し割高での購入となったが、以下のようなメリットだらけの物上げはとても嬉しい結果となった。

 もともと持っていた所有物件を再建築不可から再建築可の物件として価値が上がった
 これまでは物件所在地が点在していたため掛け持ちDIYの効率が低かったが、隣地を一気にDIYして修繕を効率化させることができた
 賃貸中の2物件の一括自主管理は非常に楽

現在、実際にお隣同士,両物件とも賃貸に出しているため、2軒続きで物件を所有するメリットを大いに享受している。

 

3. 2回目の物上げ
こうして味を占めた僕は、同じ群馬県の別の所有物件隣の家を再び物上げすることになる。
今回もDIYが長引いていた所有物件の隣の家。しかしこちらは倒壊寸前の空き家だ。
もともと所有していた物件には駐車場がなかったため、隣の空き家が安く手に入ったら…とは思っていた。
しかし、近隣の住民に持ち主を聞いても、最後に人が住んでいたのはかなり昔で管理に所有者が来ることもない。関東に息子さんが住んでいるらしい。ということしかわからなかった。

物上げ物件は管理が全くされていない結果、下図の⚠マークの部分のトタンの塀が倒壊しかけており、近隣住民が神社所有の私道を車で通り抜けるのがやっとな状態。
軽自動車の僕ですら,いつも車をこすらないかひやひやしながら通っていた。

物件購入後1年半ほど経過したころ、週末に所有物件に行くと、この塀が先日倒れてきて近隣住民は皆車が通れずに困り果て、みんなで力を合わせて元に戻したと聞いた。
この時、住民の方々が市役所にも苦情を入れた、と言っているのを聞いて、ピン!と来た。
隣の家である僕も困っていることを市役所に伝える際に、「この周辺住民みんなが困っている問題を僕が物件購入して解決します」とお伝えすれば所有者までつないでくれるのではないかと。個人情報保護が重視され、役所で個人情報を教えてもらえなくなったこのご時世だが、役所もこの周辺住民からは長期間にわたり何度も苦情が来ていたと見え、隣家の僕が物件購入・解体を前提に所有者につないでほしいとお願いすると、果たして物上げ物件の所有者(実際は意思疎通できるその息子さん)につないでもらうことが出来た。

管理できていない物件の状況からして、所有者も困っていたのではないかと想定していたが、予想通り、所有者は相続したが一度も物上げ物件に住んだことはなく(千葉在住)、固定資産税を払うだけの状況だと言う。何度も市役所から解体を勧められるなどしていたため、処分したいと思っていたとのことだった。

【何度か倒壊したトタンの塀】

そんなこんなでとんとん拍子に話は進み、解体費用を持つ代わりにということで1万円で物上げを成功させることができた。
この時は関東に所有者が住んでいたため、契約日を決め司法書士事務所に集合して契約締結・登記移転等を行った(なお、鍵は紛失したとのことだった)。
その後、僕はこの1万円の物上げ物件を約70万程で解体し、無事に所有物件に広い駐車場を作るとともに、近隣住民のヒーローと認識してもらうようになった(笑)。

【解体し、隣家の駐車場を作ることが出来た】

未だに所有物件に足を運ぶと「介護車が通れるようになってとても助かっているよ!ありがとう。」と近隣住民の皆さんからお礼を言ってもらえる。
2回目の物上げは僕にとっても近隣住民にとっても、元の所有者にとってもハッピーな、まさに三法良しの経験になった。

 

4. 仲介不動産業者を通さずに個人間で物件の売買契約を締結する際の流れ
普段売買契約締結は仲介不動産会社を通じて行うため、個人売買をする際には様々な準備が必要だ。僕は以下のような流れで個人間での売買契約を締結した。

① 元の所有者に内見の依頼
② 購入価格を伝える
③ 相手方が売却の意思決定をした場合、契約書類を準備
④ 契約書類を司法書士に確認してもらった後、契約締結日を決める
⑤ 相手方に契約書の内容・契約締結日を打診
⑥ 上記に合意を得られたら、移転登記に必要な書類(謄本、身分証明など)や不動産売却に必要な情報・書類を準備してもらうように、売主に具体的に指示
⑦ 集合場所・日時を決めて司法書士に同席してもらい、契約書を交わし、代金を支払う代わりに鍵を受け取る。司法書士がその後移転登記手続を完了させる

 

5. 個人間取引における注意点
通常の物件購入の際は、既に情報公開されている購入物件の確認や歓迎とされている内見等を経て、買付証明書を仲介不動産業者に提出し、仲介を通じて物件の売買契約の内容を合意し、仲介が作成済みの契約書を確認・修正した上で、契約締結となる。その際は、重要事項説明を受け、登記移転に必要な書類の準備や事前に確認すべき点の整理等もしてもらえる至れり尽くせりの状態で物件の購入を済ませることが可能だ。
しかし、個人間で契約締結を行う物上げの場合、これらの情報整理、合意プロセスや契約書の作成・締結、重要事項の確認から司法書士への登記移転の依頼等を含めてすべて自己責任となる。売主が一般の方、買主は僕のような投資家となる場合には、買主である投資家自身が契約書を作成したり、売主に必要な書類を準備してもらうように手伝ってあげたり、重要な事項を確認するために内見をさせてもらったり書類を取り寄せてもらったり、売主に交渉をして合意を得て動いてもらう必要があるので、とても大変だ。
僕のケースでも、特に売主が高齢の方だったため、行政から取り寄せる書類の確認や契約締結の日までに準備してもらうことをもれなくやってもらえるように、電話での確認やLINEでのやり取りなど一定の時間がかかった。そのため、物上げができそうな状況になったら、普段仲介不動産業者にやってもらっている契約締結の流れを思い出しながら、抜け漏れがないかを確認し、こまめに売主に準備の依頼や必要があれば支援を行う必要があることは心にとどめておいてもらいたい。

 

6. いつか来るそのチャンスのために
本コラムでご紹介した僕の体験談以外にも、登記簿謄本の取り寄せから所有者と連絡を取るケースや手紙を書いてポストに投函しておく、知人を介して紹介をしてもらう等様々な物上げの方法がある。
実は僕も登記簿謄本の取り寄せを行って手紙を送ったり、司法書士に調査・連絡を依頼したりとさまざまな方法で物上げをしようと試みたが、返事が返ってきたことは一度もなかった。
僕の少ない経験の中で言えることは、お金をかけずに物上げを成功させるにはやはりその土地・建物に何らかの関わりがあることが一番重要ではないかということだ。

皆さんも投資先のボロ戸建ての隣地・隣家やご自宅の隣地・隣家については、もしかしたらいつかチャンスが来るかもしれない。本コラムを読んで、準備を万端にその時を待ち、チャンスが巡ってきたときには即座に行動に出れるようにしてもらえたら嬉しい。