事故物件を購入しても大丈夫?知らないと危険な“見極め方”を徹底解説
副業として空き家投資を手がける個人投資家にとって、「事故物件」は相場より安く購入でき、高利回りを期待できる魅力的な選択肢です。しかし、価格の安さだけで購入に踏み切るのは危険です。
事故物件には、安さに見合う明確なリスクが存在します。メリットとデメリットを正しく理解せず見極め方を誤れば、期待した収益が得られないばかりか、想定外のトラブルによって副業の大家業が立ち行かなくなる可能性もあります。
この記事でわかること
・「事故物件」の定義と告知義務のルール
・投資家から見た事故物件のメリットと危険なリスク
・購入前に確認すべき「リスク確認チェックリスト」
・収益目的で購入する際の具体的なリスク判断(シミュレーション)
・購入後のリスクを低減する活用法
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そもそも「事故物件」とは?購入前に知っておくべき基礎知識
不動産投資における「事故物件」は定義が曖昧にと捉えられがちです。相場より安く購入できる半面、重大なリスクも潜むため、投資判断の第一歩として、事故物件が法的にどう扱われるか基礎知識を正確に理解しておく必要があります。
事故物件の定義と法律上の位置づけ
事故物件とは、一般的に、その物件の室内や敷地内で過去に人の死傷につながる事件や事故が発生した履歴を持つ物件を指します。
不動産取引において、買主や借主が「もし知っていたら契約しなかったかもしれない」と感じるような心理的な抵抗や嫌悪感を生じさせる要因を「心理的瑕疵(かし)」と呼びます。事故物件は、この心理的瑕疵がある物件の代表例です。
宅地建物取引業法(宅建業法)では、不動産会社(宅建業者)に対し、買主や借主の契約判断に重要な影響を及ぼす事実について、故意に告げないことを禁止しています(告知義務)。
2021年に国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました。
ガイドラインのポイントとして、老衰や病死などの「自然死」や、自宅の階段からの転落・入浴中の溺死・食事中の誤嚥(ごえん)など「日常生活の中で生じた不慮の事故死」については、原則として告げる必要がないとされました。 また、孤独死であっても、発見が早く、特殊清掃を行わずに通常のクリーニングだけで済む場合(死後発見が著しく遅れていない場合)は、原則として告知義務の対象外となります。
一方で、投資家として注意すべきなのは、告知義務があるのは「事実そのもの」に対してであり、売主に過失があるかどうかは問われないという点です。 たとえ売主に「隠そうとする悪意」がなかったとしても、買主の購入判断に重要な影響を与える事実を伝えずに売却した場合、後から「契約不適合責任」を問われ、損害賠償請求や契約解除のリスクを負う可能性があります。
このガイドラインにより、不動産取引において告知すべき「人の死」に関する基準が明確化されています。
ただし、このガイドラインはあくまで宅建業者が仲介する場合の指針です。所有者から直接購入する場合(個人間売買)は適用されず、告知が十分に行われないリスクもあるため、買主自身での確認が一層重要になります。
【参考:宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン(概要)】
どのようんな場合が「事故物件」に該当するのか
心理的瑕疵として扱われる「事故物件」には、いくつかの典型的なパターンが存在します。投資家としては、どの程度の事象が告知義務の対象となり、市場価格に影響を与えやすいのかを知っておくことが重要です。
| 発生パターン | 概要と告知義務の傾向 |
| 自殺・他殺(事件死) | 最も典型的なケース。心理的抵抗が非常に大きく、強力な心理的瑕疵とみなされます。
ガイドラインでも、発生時期にかかわらず原則として告知対象です。 (※賃貸借取引では事案発生から概ね3年間) |
| 孤独死(変死・不自然な死) | 室内で長期間発見されなかったケースです。
単なる自然死(老衰や病死)は告知対象外ですが、 発見が遅れて特殊清掃が必要になった場合は心理的瑕疵とみなされ、告知対象となります。 |
| 火災による死亡 | 物件内で火災が発生し、焼死者が出た場合も事故物件として扱われます。
10物理的な損傷と心理的瑕疵が重なるケースです。 |
| その他の事故死 | 室内での転落事故や不慮の事故による死亡なども、
状況によって告知対象となる場合があります。 |
| 近隣トラブル・周辺環境の問題 | 厳密には「人の死」とは異なりますが、
近隣に反社会的勢力の事務所がある、ゴミ屋敷がある、深刻な騒音トラブルが存在するといった 「環境的瑕疵」も、心理的抵抗を生む要因として告知対象に含まれることがあります。 |
これらの事象は、投資物件として賃貸に出す際の入居者募集や、将来売却する際の価格に直接影響します。
なぜ安くなるのか?市場価格の下落理由を解説
事故物件が市場価格よりも大幅に安くなる最大の理由は、「心理的抵抗」の存在です。この心理的なハードルが、需要と供給のバランスを大きく崩します。
・需要の著しい減少:
購入希望者や入居希望者の絶対数が激減します。需要が少なければ、価格を下げなければ買い手が見つかりません。
・売れにくさ(流動性の低下):
買い手が見つかりにくいため、売却までに非常に長い時間がかかるか、大幅な値下げが必要になります。不動産投資において流動性(換金しやすさ)は重要な要素であり、流動性が低い物件は、そのリスクを織り込んで価格が低く設定されます。
・金融機関の融資制限:
事故物件は担保評価が低くなる傾向があります。金融機関は売れにくい事故物件を回収リスクが高いと判断するため、融資が受けられない、または減額されるケースが多くなります。これも需要を狭め、価格を下げる要因です。
事故物件を購入するメリットとは?価格だけでない“投資的な魅力”
事故物件には明確なリスクが存在しますが、副業大家や個人投資家にとって、そのリスクを上回るだけの投資的な魅力があることも事実です。危険性を理解した上でメリットを最大限に活かせれば、事故物件は有力な投資対象となります。
相場より安く購入できる(2〜5割の値引き幅)
最大のメリットは、「購入価格の安さ」です。
通常の空き家や中古戸建てと比較して、大幅に安い価格(事案によりますが相場の2〜5割引き)で物件を取得できるため、初期投資を劇的に抑えることが可能です。資金が限られている個人投資家にとって、少ない自己資金で不動産オーナーになれるチャンスが広がります。
初期投資が低いことは、必然的に「高い利回り」を期待できることを意味します。例えば、相場800万円の物件がを事故物件であることからとして500万円で購入できた場合、同じ家賃(例:月6万円)で貸し出せたとすれば、表面利回りは大きく向上します(相場物件:9.0%に対し、事故物件:14.4%)。
家賃も相場より下げる必要が出てくる場合もありますが、それでも購入価格の安さが利回り全体を押し上げる効果は大きいです。
リノベーションで印象を変えられる
事故物件が持つ「心理的瑕疵」は、目に見えない記憶や印象が原因です。しかし、物理的な空間はリノベーションによって一新できます。安く購入できた分、通常ならコストを抑えがちなリフォームやリノベーションに資金を回す戦略が取れます。
・内装の全面的な変更:
事故が起きた当時の面影を一切なくすため、壁紙、床材、天井をすべて張り替えます。特に暗い印象を与える和室を明るい洋室に変更する、水回り(キッチン、浴室、トイレ)を最新の設備に入れ替えるといった対策は、心理的抵抗を軽減するのに非常に効果的です。
・間取りの変更:
事故が発生した部屋そのものを無くしてしまう、という抜本的な対策も可能です。例えば、該当の部屋を解体してリビングを広げる、または収納スペース(ウォークインクローゼットなど)に変更することで、居住空間としての抵抗感を払拭できます。
フルリノベーションを施し、新築同様の美しい内装に生まれ変わらせることで、「お得で綺麗な物件」として、新たな入居者層にアピールできます。
賃貸ニーズが一定ある(価格重視・短期入居など)
「事故物件には誰も住みたがらない」というのは、思い込みです。確かに多くの人は避けますが、特定のニーズを持つ層にとっては、事故物件の「安さ」が魅力となります。
・価格を最重要視する層:
「とにかく家賃を抑えたい」「住む場所は寝るためだけ」と考える学生、単身者、または生活保護受給者などにとって、相場より安い家賃は大きなメリットです。過去の経緯よりも、現在の経済的な利益を優先する層は一定数存在します。
・短期入居・セカンドハウス:
一時的な出張や単身赴任、あるいは趣味の部屋や倉庫代わりとして借りたい場合、居住期間が短いため心理的な抵抗が薄れやすい傾向があります。
・事業利用(事務所・倉庫):
住居としてではなく、事務所や作業スペース、資材置き場として利用する場合、従業員が寝泊まりするわけではないため、心理的瑕疵はほとんど問題視されません。相場より安く事業拠点を確保できるため、中小企業や個人事業主からのニーズが見込めます。
・外国人入居者:
文化的な背景から、心理的瑕疵に対する考え方が異なる外国人も多くいます。事故物件であることよりも、立地や広さ、家賃を合理的に判断する傾向が強い層もターゲットとなります。
このように、ターゲットを明確に絞り込むことで、事故物件であっても安定した賃貸経営が期待できます。
事故物件には“危険”も潜む。注意すべきリスクとは
高い利回りが期待できる一方、事故物件投資には重大な危険も潜んでいます。メリットである「安さ」は、これらのリスクの裏返しであることを忘れてはいけません。
想定以上に入居がつかないリスク
事故物件投資における最大の誤算は、「これだけ家賃を下げれば誰か住むだろう」という期待が裏切られることです。つまり、「想定以上に長期間、入居がつかない(空室)リスク」です。
価格の安さやリノベーションの綺麗さよりも、「過去に人が亡くなった」という心理的な抵抗感は、想像以上に強力です。
・ターゲット層の限定:
多くの入居希望者は、物件検索サイトの条件で「心理的瑕疵あり」のチェックを外します。結果として、オーナーが設定した「安い家賃」が、入居希望者の目に触れる機会すら失われます。
・内見数の減少:
たとえ情報が届いても、「怖い」「縁起が悪い」といった理由で内見(現地訪問)に至るケースは激減します。
この結果、相場より家賃を大幅に下げても入居者が決まらず、数ヶ月、場合によっては1年近く空室が続く事態も発生します。
副業大家にとって、空室期間は家賃収入がゼロになる一方、固定資産税や最低限の管理費は発生し続けます。「収入ゼロ、支出あり」の状態が続くとキャッシュフローは急速に悪化し、投資計画そのものが破綻する危険性があります。
売却時にさらに価格が下がる可能性
投資家にとっての出口戦略、すなわち「売却」において、事故物件は大きな足かせとなります。
自分が安く購入できたのと同様に、次に売却する際も、買主は「事故物件であること」を理由に大幅な値引きを要求してきます。購入時よりもさらに価格が下がる、あるいは同等の価格でしか売れず、売却益(キャピタルゲイン)がほとんど見込めないケースも珍しくありません。
また、一度事故物件のレッテルが貼られると、その事実は(告知義務の期間に関わらず)半永久的に付いて回ることが多いです。自分が購入した後にリノベーションを施し、長期間賃貸に出した後であっても、次の買主に対しては心理的瑕疵として告知が必要になる可能性が高いです。
流動性が極めて低いため、「売りたい時に売れない」リスクは常に覚悟しなければなりません。
近隣との関係悪化や風評被害
物件そのものの問題だけでなく、周辺環境がリスク要因となることもあります。特に事件性が高い(他殺など)事故物件の場合、近隣住民がその記憶を強く持っている場合があります。
・ネガティブな噂:
新しいオーナー(自分)や新しい入居者に対して、「あの家のオーナー」「あそこに住んでいる人」といったネガティブな噂や偏見が向けられる可能性があります。
・入居者募集への妨害:
悪意がなくとも、近隣住民が不動産会社の案内担当者や内見に来た客に対し、「ここはやめたほうがいい」「昔、事件があって…」といった話をしてしまい、契約が破談になるケースもあります。
・地域コミュニティへの不参加:
近隣住民との関係が悪化すると、地域の清掃活動や町内会への参加が難しくなり、物件管理に支障をきたす恐れもあります。
空き家投資、特に戸建て賃貸は地域との関わりが重要になるため、風評被害のリスクは軽視できません。
心理的負担を感じて住めない・貸せない
これは投資家自身、オーナー自身の問題です。「自分は気にしない」と思って購入したものの、いざ所有してみると心理的な負担が重くのしかかるケースです。
・自己利用の断念:
当初は賃貸に出す予定でも、空室期間が続いた際に「一時的に自分が住もう」「事務所として使おう」と考えるかもしれません。しかし、事故物件であることを意識してしまい、結局その物件に足を踏み入れられなくなることがあります。
・管理・運営意欲の低下:
物件への愛着が持てず、清掃や管理、入居者募集といった大家業へのモチベーションが低下してしまう危険性があります。
・入居者への罪悪感:
入居者が見つかったとしても、「こんな物件に住まわせて申し訳ない」といった罪悪感を感じ、家賃交渉に弱気になったり、本来不要な設備投資をしてしまったりと、健全な賃貸経営が難しくなる可能性もあります。
安く買うことだけを優先し、自分自身の心理的耐性を過信しないことが重要です。
購入前にできる「リスク確認チェックリスト」
事故物件投資の成否は、購入前にどれだけ徹底的にリスクを洗い出せるかにかかっています。「安いから」で飛びつかず、以下のチェックリストを必ず実行してください。
過去の出来事(発生時期・内容)を正確に把握する
リスクを判断する上で最も基本的なステップは、「過去に何が起きたのか」という事実を正確に把握することです。
「事故物件」と一口に言っても、その内容はさまざまであり、心理的瑕疵の度合い(買主・借主が感じる抵抗感の強さ)は事案によって全く異なります。
購入検討時には、不動産会社(宅建業者)に対し、以下の情報を可能な限り詳細に確認してください。
・発生時期(いつ):
いつ頃発生した出来事なのか。発生から日が浅いほど、心理的抵抗は強いと判断されます。
・発生場所(どこで):
物件のどの部屋で発生したのか。リビングなのか、浴室なのかによっても、リフォームの計画が変わります。
・発生内容(なにが):
死因(自殺、他殺、孤独死、事故死など)は何か。特に事件性(他殺)の有無は、周辺の風評リスクに直結します。
・発見状況:
孤独死の場合、発見までにどのくらいの期間がかかったのか。発見が遅れている場合、特殊清掃が必要となり、その費用や臭いのリスクも考慮しなければなりません。
これらの情報は、宅建業者が売主から聞き取り、「重要事項説明書」や「告知書」といった書面で買主に説明されます。
もし、不動産会社の説明が「詳細は不明だが心理的瑕疵あり」などといった曖昧なものであったり、情報の開示を渋ったりする場合は、購入を見送るのが賢明です。正確な事実が把握できなければ、リスクの大きさを測ることすらできないためです。
告知義務の範囲を理解する
前の見出しで挙げた「過去の出来事」は、主に不動産会社から提示される「告知書」や「重要事項説明書」によって確認します。しかし、この「告知義務」のルールと限界を正しく理解しておくことが重要です。
国土交通省が定めたガイドラインには、告知すべき「期間」や「範囲」の目安が示されています。例えば、賃貸では「事案発生から概ね3年間」が目安とされていますが、売買(購入)の場合は明確な期間制限がありません。
つまり、10年前の出来事であっても告知対象となる可能性がある一方、どこまで説明されるのか(=どこまで遡って調査・告知されるか)は、売主の認識や不動産会社の姿勢、さらには地域の慣習によっても差があるのが実情です。
また、ガイドラインの「対象外」となる事案にも注意が必要です。日常生活における自然死(老衰、病死)や、物件の共用部(※戸建て空き家では該当しにくい)、隣接地での死亡などは、原則として告知義務の対象外とされています。
投資家として注意すべきは、「告知義務がない=リスクがない」ではないという点です。法的に告知義務がなくても、近隣住民がその事実を知っていれば風評被害のリスクは残ります。告知書の内容をただ受け取るだけでなく、ガイドラインの限界を理解した上で、自ら情報を取りに行く姿勢が求められます。
周辺住民や近隣環境の情報も確認
不動産会社からの情報(公的な情報)だけでなく、現地での生の情報(私的な情報)を収集することが、事故物件の見極めには不可欠です。
・現地への複数回訪問:
昼間だけでなく、夜間や雨の日にも現地を訪れ、雰囲気を確認します。街灯の少なさ、人通りのなさなどが、ネガティブな印象を増幅させることがあります。
・近隣住民への聞き込み:
最も有効な方法の一つです。近隣の商店や、物件の周囲を清掃している住民などに、当たり障りのない会話(例:「この辺の住み心地はどうですか?」「空き家を探しているのですが、この辺りで何か変わったことはありませんでしたか?」)から、物件の評判や過去の出来事について探りを入れます。風評被害のリスクを直接確認できる可能性があります。
・インターネットでの調査:
「Googleマップの口コミ」で近隣の店舗や公園の評判を調べる、「大島てる」のような事故物件公示サイトで情報が掲載されていないかを確認するなど、デジタルな情報収集も並行して行います。
修繕・リフォーム履歴の有無を確認
事故が発生した後、物件に対してどのような「処置」が施されたかは、物件の価値と将来のリスクを左右する重要なポイントです。
・特殊清掃の履歴:
特に孤独死などで発見が遅れた場合、適切な特殊清掃(遺体の痕跡や臭いを専門的に除去する作業)が行われたかどうかは決定的です。特殊清掃の実施証明書や作業報告書の提示を求めてください。不十分な清掃は、後から臭いや害虫が発生する原因となり、賃貸経営に致命的なダメージを与えます。
・リフォームの範囲と時期:
事故後にどのようなリフォームが行われたかを確認します。単なる表面的な壁紙の張り替えだけなのか、床下や壁の内部まで解体して原状回復したのかによって、心理的抵抗の度合いは変わります。
・未処理の場合のリスク:
もし事故発生時のまま、あるいは簡易清掃のみで売りに出されている場合、購入後に高額な特殊清掃費用やリフォーム費用が発生します。物件価格が安くても、追加コストを考慮すると割高になる危険性があります。修繕履歴の確認は、購入後の実質的なコストを見積もるために必須です。
収益目的で購入するなら「数字」でリスクを判断する
事故物件投資は、感情論(「怖い」「かわいそう」)を排し、あくまでビジネスとして「数字」で冷静に判断することが求められます。リスクを価格に転嫁し、それでもなお利益が出るのかをシビアに試算する必要があります。
想定される家賃の下落や空室率の悪化(稼働率の低下)を具体的な数値に落とし込み、ご自身のリスク許容度を測ることが重要です。
想定家賃・稼働率からリスク許容度を数値化
リスクを数値化する第一歩は、家賃下落の許容ラインを見極めることです。
例えば、「相場の家賃が7万円のエリアで、事故物件のため5万円でしか貸せない」という試算を立てます。年間収益で見ると、相場物件は84万円、事故物件は60万円です。
この年間24万円の収益差(機会損失)と、購入価格の安さ(例えば相場より300万円安いなど)を天秤にかけ、何年で投資回収できるかを計算します。この「家賃の下落」を織り込んでもなお、市場平均を上回る利回りを確保できるかが、投資判断の第一基準です。
最悪シナリオを想定したシミュレーション
楽観的なシミュレーション(すぐに満室になる、家賃は少し下げるだけで済む)だけでは不十分です。副業大家が失敗しないためには、最悪の事態を想定したストレスチェックが不可欠です。
・長期の空室リスク:
「購入後、最初の入居者が見つかるまでに6ヶ月かかる」「入居者が退去した後、次の入居者が見つかるまでに平均3ヶ月かかる」など、空室期間を長めに設定して収益を試算します。
・追加コストの発生:
購入後に発覚した臭いの除去費用、入居者募集のための特別な広告宣伝費(広告料を多めに払うなど)、想定外の修繕費などを、あらかじめコストとして組み込みます。
・再販売価格の大幅下落:
出口戦略として売却を考える場合、「購入価格からさらに20%下落した価格」でしか売れない、といった最悪のシナリオでシミュレーションします。
これらのネガティブな要素をすべて盛り込んでも、なおキャッシュフローがマイナスにならず、トータルで利益が残る(あるいは許容できる損失範囲に収まる)かどうかを確認します。
表面利回りだけでなく、実質利回りで判断
事故物件投資で特に注意すべきなのが、「表面利回り」の罠です。表面利回り(年間家賃収入 ÷ 物件購入価格)は、購入価格が安いため非常に高く見えがちです。
しかし、事故物件は購入後にかかる費用が通常より多くなる傾向があります。
・リフォーム、特殊清掃費
・固定資産税、火災保険料(通常物件と同様)
・管理会社への管理委託費(事故物件専門の管理会社は割高な場合も)
・入居者募集の広告宣伝費
・修繕積立金(戸建ての場合は自己積立)
これらの運営経費(ランニングコスト)をすべて差し引いた「実質利回り」((年間家賃収入 – 年間諸経費) ÷ (物件購入価格 + 購入時諸経費))で判断しなければ、本当の収益性は見えてきません。
表面利回りが20%と高く見えても、実質利回りを計算したら5%しかなかった、という事態も十分にあり得ます。手間やリスクに見合うだけの「実質利回り」が確保できるかどうかが、最終的な判断基準となります。
購入後の活用法とリスク低減の工夫
事故物件を無事に購入できたとしても、そこがゴールではありません。安定した賃貸経営を行い、リスクを最小限に抑えるためには、購入後の「活用法」と「運営の工夫」が重要になります。
リフォームで“印象の再生”を図る
事故物件の最大のリスクである「心理的瑕疵」に対抗する非常に最も有効な手段が、リフォームによる印象の再生です。
単なる修繕やクリーニングに留まらず、購入価格が安かった分をリフォーム費用に充当し、物件のイメージを一新させます。
・間取りの変更:
もし可能であれば、事故が起きた部屋の間取りを変更する(例:和室を洋室にする、壁を取り払ってリビングと一体化する)ことは、心理的な抵抗感を払拭する上で非常に効果的です。
・内装の全面刷新:
壁紙、床材、天井をすべて明るい色調のものに張り替えます。特に照明器具を増やしたり、デザイン性の高いものに変えたりして、空間全体を明るく演出するだけでも、過去の暗い印象を薄れさせることができます。
・水回りの更新:
キッチン、浴室、トイレなどのといった水回りを最新の設備に入れ替えることも、新しさを感じさせ、入居者の満足度と心理的安全性を高めるのに役立ちます。
物理的に空間を「別物」に作り変えることで、過去の出来事の記憶を上書きし、新たな入居者に「お得で綺麗な物件」として受け入れられやすくする工夫が重要です。
「訳あり」をあえて開示して信頼を得る戦略
心理的瑕疵は、隠そうとすればするほどトラブルの原因となります。むしろ、逆手に取って積極的に情報を開示する戦略が有効な場合があります。
・誠実な告知:
入居希望者に対し、不動産会社からの説明(告知義務)任せにせず、オーナー自身(または管理会社)からも「この物件にはこういう経緯がありますが、専門的な清掃とリフォームを徹底的に行い、安全性や衛生面は全く問題ありません」と誠実に説明します。
・家賃の安さの理由を明確化:
「訳ありだからこそ、この綺麗な内装でこの家賃が実現できています」と、デメリットとメリットを明確に結びつけて提示します。不当に安くしているのではなく、明確な理由があって安いことを理解してもらうことで、入居者の納得感と信頼感を得ることができます。
隠し事をしない誠実な姿勢は、入居者との長期的な信頼関係につながり、結果として安定した入居に結びつく可能性があります。
事故物件専門の賃貸仲介・再生サービスを活用
事故物件の扱いは、通常の不動産会社ではノウハウがなく、敬遠されることも多いです。リスクを低減し、効率的に運営するためには、専門家の力を借りるのが賢明です。
・事故物件専門の仲介会社:
事故物件を専門に扱う賃貸仲介会社は、「事故物件でも構わない」という顧客リスト(ニーズ)を独自に持っている場合があります。通常のポータルサイトで募集するよりも、早く入居者を見つけられる可能性が高まります。
・専門の管理会社:
事故物件の管理やクレーム対応に慣れた管理会社に委託することで、オーナー自身の心理的負担を大幅に軽減できます。
・再生(リノベーション)業者:
特殊清掃から心理的瑕疵を払拭するためのデザインリノベーションまで、一貫して手がける専門業者も存在します。どこまで修繕すればリスクを最小化できるか、投資対効果を含めて相談できるパートナーを見つけることが成功の鍵となります。
これらの専門サービスを活用するにはコストがかかりますが、長期の空室リスクやトラブル対応の手間を考えれば、必要な投資と割り切る判断も重要です。
まとめ|「安い」だけで決めない。数字と感情、両方で判断を
事故物件の購入は、副業として空き家投資を行う個人投資家にとって、初期投資を抑えて高利回りを狙える魅力的な戦略です。しかし、その安さには「売却の困難さ」「風評被害」「心理的負担」といった明確な危険が伴います。
成功の鍵は、「安い」という一点だけで判断しないことです。
購入前には、告知義務の範囲や修繕履歴を徹底的に確認する「リスク確認チェックリスト」の実行が不可欠です。さらに、投資として成立させるためには、家賃下落や長期空室といった最悪のシナリオを想定し、「実質利回り」でシビアに収益性を判断する「数字」の視点が求められます。
同時に、自分がその物件を所有し続けることに「心理的負担」を感じないか、という「感情」の側面も無視してはいけません。
事故物件は、リスクを正しく見極め、適切な対策(リノベーションや専門業者の活用)を講じることができれば、有力な投資対象となります。メリットと危険性の両方を深く理解し、冷静な判断を心がけましょう。
空家ベースは、日本全国の空き家・古民家を取り扱うポータルサイトです。未公開物件の配信や、現状のままで掲載可能な柔軟な対応が魅力です。買い手との出会いを広げたい方は、ぜひ公式LINEに登録して、気軽に物件掲載から始めてみてください。



空家ベース編集部です。空家と書いて「ソライエ」と読みます。Twitter・Instagram・公式LINEなどでも物件情報を随時配信しています。空き家を買って再生したい方、他では売れないと言われてしまった空き家をご所有の方はぜひご相談ください!
