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27歳“ボロ戸建てファイター”が語る空き家再生の魅力
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27歳”ボロ戸建てファイター”が語る空き家再生の魅力

空家ベース編集部

2022年5月現在、戸建て10戸、アパート1戸、倉庫1戸、山1つ、更地1つを運用しているというeclairさん。
もともと不動産関係の仕事をしていたのかと思いきや、つい最近までフリーターだったというから驚きだ。
eclairさんはなぜ、知識ゼロの状態からいきなり空き家再生に挑もうと思ったのか。そこに至るまでの経緯や空き家再生の魅力について、詳しく話を伺った。

eclairさんプロフィール
平均30万円以下で家を買う27歳。通称”ボロ戸建てファイター”
千葉県出身。情報系の専門学校を中退後、アルバイトを経て「ボロ戸建て投資」に着手。
2021年5月に家賃月収8万円で勤め人を卒業。
2022年5月現在、戸建て10戸、アパート1戸、倉庫1戸、山1つ、更地1つを運用中。
Twitterのフォロワーは4,000人超。(2022年5月時点)
eclairさんTwitterアカウント

株で500万円溶かした苦い経験

失敗のイメージ

千葉県で生まれたeclairさんは、高校卒業後、自宅から2時間半かかる情報系の専門学校に通い始めた。しかし長時間の通学に嫌気がさし退学。その後、イベント関連のアルバイトをしながら公務員を目指すも面接で落とされてしまった。

その時、eclairさんは自分にふたつの選択肢を用意した。
ひとつは自転車で日本一周の旅に出ること。そして、もうひとつは実家を出てどこか知らない土地で暮らすこと。

彼が選んだのは後者だった。
自然や動物が好きという、ただそれだけの理由から縁もゆかりもない北海道に行くことを決めた。
思い立ったが吉日――座右の銘そのままの行動力で、1か月後には牧場で牛の乳しぼりをしていた。

背中を押してくれたのは父だった。心配する母をよそに「とりあえずやってみれば」と快く送り出してくれた。
さらに父は、旅立つ息子にあるものをプレゼントした。お年玉や入学祝いを株で運用して増やした、250万円余りの残高が印字された通帳だ。
「現金化して使うもよし、このまま運用してもよし、好きにしろ」
父からそう言われたeclairさんは株のまま運用することを選び、それから2年半の間、自分で貯めたお金も合わせ、株に突っ込み続けた。が、結果は惨敗。見事にすべてを溶かしてしまった。
その額、500万円――。

結局、それから間もなく千葉に戻り、今度は複合型リゾート施設でアルバイトを始めるも、半年間勤めれば社員にするという約束が果たされないまま1年半が過ぎた。
「この会社で働き続けるのはもう無理かな」
もとから若くしてFIREすることを目標にしていたeclairさんは、そこで大きな決断をする。

背水の陣で臨んだ空き家再生

「最初は株でFIREするつもりでした。でも自分には無理だと思って。じゃあ他に何か投資になるものはないかと考えた時に、思いついたのが不動産だったんです」

しかし当時手元にあったのは、なけなしの株を換金した40万円ほど。
それだけの金額で始められる不動産なんて果たしてあるのだろうか――本を読んだり、TwitterやYouTubeを観たりして情報を集めた。そうして辿りついたのが、格安で売られているワケありの戸建てだった。

これなら自分でもなんとかなるんじゃないか――2019年8月に物件購入を思い立ったeclairさんはまたもや驚くべき行動力を発揮。ポータルサイトで見つけた物件にすぐ内見を申し入れ、価格交渉をし、法人を立て、出費を抑えるため登記まで自分で行い、12月にはその物件の正式なオーナーになっていた。

だが記念すべき1号物件は “てんこもり”物件。
シロアリ、雨漏り、傾き、残留物……普通の人間なら回れ右して帰るような状態だった。しかし「自分にはもうこれしかない。これでやっていくんだ」と決めていたeclairさんは怯まなかった。
日曜大工が得意な祖父から修繕のアドバイスを受け、本や動画で調べ、トライ&エラーを繰り返しながら、正しく“ファイター”の如きガッツで頑張り続けた。当時はまだ複合型リゾート施設で働いていたため、冬休みに有給をすべてぶつける形で短期決戦に挑み、見事17日間で修繕を完了させた。

こうして3LDK、庭付き駐車場付き4万円で募集をかけた物件は、たった3日で問い合わせが入り、あっという間に契約が成立。
それは不動産オーナーとして、初めての家賃収入が決まった瞬間だった。

“ボロ戸建てファイター”になってできた多くの仲間

それから2年半。
冒頭でも紹介したように、今では多くの物件を所有し、その家賃収入だけで暮らせるようになったeclairさん。
“ボロ戸建てファイター”として様々な情報をTwitterで発信するうち、多くの仲間もできた。無償で修繕の手伝いに来てくれるフォロワーもいる。

「日当を払えない代わりに僕の知識や経験をお話して、お互いwin-winの関係になれればと募集をかけたら、思った以上の反響がありました」

そのほとんどが、空き家再生を自分でもやってみたいと考えている人たちだったが、なかにはそうではない、職人さんや他業種の人もいた。
「面白そうなことやってるな、頑張ってるから助けてやろうかな、みたいな感じで手伝いにきてくれるんです」
気づくと彼の周りには、その人柄や心意気に惚れ込んだ仲間たちがたくさん集まっていた。

ボロボロだった戸建てが満足度の高い物件に

そんな彼の人柄が垣間見える、いくつかのエピソードがある。
例えば購入した物件を修繕した後。
eclairさんは、きれいになったアフターの写真を必ず元の所有者に送る。
「みなさん、とても喜んでくれますね。わざわざ僕のところに会いに来て、涙を流しながらありがとうと言ってくれる方もいて、そういう時はグッときます」

また、入居者のところに手土産を持って遊びに行くこともある。一緒にお茶をしたり、入居者が飼っている猫と触れ合ったりもする。
「自主管理をしているので、退去の立ち合いもトラブルの対応も、すべて自分でやっています。当然、普通の大家さんと比べるとそのつながりは濃密になりますが、僕はそれをプラスに捉えています」
これまでに退去したのは1件のみ。気に入ったから買い取りたいと言われている物件が3件あるというのも納得だ。物件の住み心地はもちろん、密にコミュニケーションをとってくれるeclairさんという存在そのものが、入居者の満足度を高めているのだろう。

社会貢献にもなっている空き家再生事業

空き家のBeforeAfter

eclairさんがリフォームをした物件の一例

ここまでの話からもわかるとおり、eclairさんは非常にポジティブで抜群の行動力を持った人物だ。切り替えも速く、例え失敗してもそこで折れない強さをも持ち合わせている。
だがそんな彼を以ってしても、「空き家再生は簡単ではない」と正直に話す。壮絶な状態の物件を自分が直接、イチから修繕するのだから当然だ。
「でも物件を直し切れば月々家賃が入ってくる。それが大きなモチベーションになっています」
そしてもうひとつ、eclairさんのモチベーションとなっているのが、空き家再生を通じた社会貢献だ。

「所有者の方から、空き家再生事業はこれからの時代に必要な仕事だから、どんどん活動していってほしいと言われることがよくあります」
売りたくても買い手がつかず、直そうにも自分では難しい。そんな物件を抱えて困っている人が多くいる。
そんなワケあり物件を購入することで所有者を助けることができ、加えて安い賃料で貸し出すことで入居者にも喜んでもらえる――eclairさんは、自分が始めた空き家再生事業が結果的に社会貢献になっていることを知り、大きなやりがいを感じた。
「ありがとうって感謝の言葉をもらう度、満足感を覚えます。頑張ってよかったなって」

人生が特段に豊かになった

田舎の道のイメージ

イメージ

「空き家再生は自分でイチからやる、気力体力根性がないと途中で挫折してしまう可能性が高いです。でもそこを頑張れる人であれば、挑戦してみる価値はあると思います」eclairさんは空き家再生を通じて、人生が特段に豊かになったと語る。

「会社にいた頃はそこだけの小さなコミュニティーで終わってしまっていたんですけれど、この事業を始めて、Twitterで情報を発信するなかで、職人さんも含めてお手伝いに来てくださる方や空き家の所有者さん、そして入居者の方など、これまでの人生では関わることのなかった様々な方と出逢えて人生の幅が広がりました」
それは何にも代え難い財産だ。
人が人を呼び仲間となり、知識や情報が集まり、そして時に助けとなる。

挑戦したからこそ得られたその財産を糧に、“ボロ戸建てファイター”eclairさんはこれからも走り続ける。
その先に見える景色はきっと、素晴らしい眺めになることだろう。

取材・文/御堂うた