不動産投資で法人化するタイミングの目安は?判断基準や注意点を分かりやすく解説
アパート経営によって家賃収入を得ている個人事業主は増加傾向にあり、投資目的で不動産を購入し副業にする人も少なくありませんが法人化した方が良いケースもあります。
なぜなら個人と法人では課税所得に対する税率や経費計上の考え方、節税や相続税対策について違いがあるからです。
そのため家賃収入が一定以上のオーナーは法人化を検討することをおすすめしますが、法人化には注意点もあります。
この記事では不動産投資で法人化するタイミングと目安、判断基準、注意点について解説します。
これから賃貸経営の会社を起業する予定のある人は、参考にしてください。
- 不動産投資を個人・法人で行う場合の違い
- 不動産投資を法人化するタイミング
- 不動産投資を法人化すべきではないケース
- 不動産投資を法人化するメリット・デメリット
- 不動産投資を法人化する流れ

不動産投資を個人・法人で行う違いは?
不動産投資を個人で行う場合、サラリーマンであれば給与所得と不動産所得に対して税金が課せられます。
一方、法人化すると「法人税」「法人住民税」「法人事業税と特別法人事業税」「地方法人税」が課せられることになり、法人税等として課税されます。
このように不動産投資において個人と法人では課税内容が異なりますが、課税内容以外にも税率が違うという点にポイントがあります。
個人の税率は所得によって変動する累進課税となっており、法人の場合は年間の課税所得が800万円を超えるかどうかで税率が変動します。
税率の違いについて以下の表にまとめましたので、参考にしてください。
所得税及び法人税額 | 所得税率 | 法人税率(※) |
---|---|---|
1,000円から195万円まで | 5% | 15.00%(800万円まで) |
195万円から330万円まで | 10% | |
330万円から695万円まで | 20% | |
695万円から900万円まで | 23% | |
900万円から1,800万円まで | 33% | 23.20% |
1,800万円から4,000万円まで | 40% | |
4,000万円から | 45% |
(※)資本金1億円を超える法人は23.20%、資本金1億円以下で年間の譲渡益が800万円以下の適用除外事業者は19%
【参考サイト:No.2260 所得税の税率|国税庁】
【参考サイト:No.5759 法人税の税率|国税庁】
不動産投資で法人化するタイミングの目安は?
個人事業主として不動産投資を継続するのか法人化するのか悩んでいる所有者は多いですが、所得の分岐点や事業拡大の検討、相続や贈与の発生など法人化を検討すべきタイミングがあります。
この章では法人化に踏み切るかどうかを判断するためのタイミングを紹介します。
サラリーマン所得が900万円を超えている
サラリーマンをしながら不動産投資を行い、年収が約1,100万円前後になると所得が900万円を超えることになりますが、この所得範囲になると法人化がおすすめとなります。
なぜなら所得が900万円を超えると所得税率は33%、695万から900万の間であっても23%となり、法人化した場合の法人税率(800万以下は15%、800万円超は23.2%)の方が低くなる可能性が高いからです。
そのため確定申告で毎年所得金額をチェックし、900万円付近になっていれば法人化を検討すべきといえます。
ただし必ずしも法人化した方が良いわけではなく、法人化すると青色申告特別控除が使えなくなり、節税効果が小さくなることもあります。
青色申告特別控除は賃貸住宅が5棟10室以上の場合に65万円、それに満たない場合は10万円の控除を受けられる制度で、個人のみ適用されます。
さらに、給与所得の減収によって個人のままにした方が税率が安くなるケースもあります。
このことからも所得のみで法人化に踏み切るのはリスクが高く、注意が必要です。
専業大家で不動産所得が330万円を超えている
サラリーマンとしての給与がなく専業大家として利益を得ている場合、不動産所得が330万円を超えると法人化することで税率を23%から15%にできます。法人税率は2015年に25.5%から23.9%、2016年に23.9%から23.4%、そして2018年以降の法人化については23.2%に変更となりました。
このように法人税率は下落傾向にありますので、一定以上の収入がある不動産投資であれば法人化がおすすめです。
ただし法人化するためには会社設立のための費用や司法書士への依頼料、法務局への登記申請費用などがかかりますので、少ない収入で法人化した場合は赤字になることもあり、注意点といえます。
【参考サイト:法人課税に関する基本的な資料 : 財務省】
事業規模拡大を見据えている
投資物件を継続的に購入して事業規模拡大を見据えている人は、法人化した方が税率が低くなり純利益を増やすことができます。
個人の場合は累進課税により収入が増えると所得税は最大45%まで増加してしまいますが、法人化すれば最大23.3%です。
そのため収入が増加する前に法人化することで、高い節税効果を見込むことができます。
相続や贈与を見越している
金融資産や株式など多くの資産を所有している場合は不動産を購入して法人化することで、相続税や贈与税を抑えることができます。
こうした個人資産を相続や贈与した場合、相続人や受贈者は税金を支払うことになりますが法人化していれば代表取締役が変更になるだけのため、相続税や贈与税は非課税です。
さらに相続においては金融資産が減ることになるため相続税を圧縮することができ、相続トラブルを未然防ぐという効果を期待できます。
資産が多いという理由で不動産投資をスタートして法人化する人も多いことから、相続や贈与の発生は法人化を検討するタイミングといえます。
不動産投資で法人化しなくても良い場合
不動産投資は法人化することで大きな節税効果を見込むことができますが、全てのケースで効果があるわけではありません。
家賃収入の状況によっては個人事業主のままにしておいた方が得になる場合も多く、法人化は慎重に判断すべきポイントです。
一度法人化してしまうと個人事業主に戻すには多くの工数と費用が発生しますので、この章で解説する「法人化しなくても良い場合」を事前にチェックしてください。
赤字物件のみ保有している場合
税金は利益に対して課税されるため、収支がマイナスの不動産投資であればそもそも課税されません。
このような経営状態であれば会社設立に必要となる費用や必要書類を準備して法人化するメリットは小さいといえ、個人事業主として黒字化を目指すことをおすすめします。
経営状態が良くなり個人の所得税よりも法人税の方が税率が安くなる収入になったタイミングで、法人化を検討することが大切です。
課税所得が少なく税率差が小さい場合
利益が出ていても課税所得が少ないのであれば、法人化による節税効果も小さくなります。
たとえば年間の収入が100万円の場合、個人の所得税は5%ですが法人税は15%と3倍になってしまい、330万円まで増えたとしても個人の所得税は10%のため法人税よりも安いです。
つまり、年間で330万円を確実に超える収益がないのであれば法人化による節税効果を活かすことができないといえ、経営圧迫の原因にもなりかねませんので注意が必要です。
不動産投資で法人化するメリット・デメリット
不動産投資を個人事業主から法人に切り替えることにはメリットとデメリットがあり、正しく理解したうえで判断することが重要です。
この章では不動産投資を法人化するメリットとデメリットについて、詳しく解説します。
不動産投資で法人化するメリット
法人化の代表的なメリットとして税率が安くなるという点があります。
個人の場合は所得に応じて所得税が変化する累進課税制度のため最大45%まで税率は上がりますが、法人化すると比例課税制度となり最大でも23.3%です。
つまり、不動産投資の規模が大きく収益性が高ければ高いほど法人化による節税効果は高いといえます。
また、法人化することで家族を役員にして所得を分散し、一人あたりの課税所得を下げるという方法も可能になります。
さらに相続や贈与が発生することによる相続税や贈与税においても、代表者が変更になるだけですので課税されることはありません。
これ以外にも不動産投資が赤字になった場合に繰越欠損金を利用して毎年の課税額を削減したり、社会的信用性が向上することで金融機関から融資を受けやすくなるという点も大きなメリットです。
不動産投資を法人化するメリットについては以下のサイトに詳しく記載していますので、チェックしてください。
【不動産投資で法人化するメリットとは?方法や注意点を徹底解説】
不動産投資で法人化するデメリット
不動産投資で法人化する場合、開業するのに実印や必要書類の作成、法務局や公証役場への提出など工数とコストがかかってしまいます。
法人化に慣れている人であればすぐに用意できる準備ですが、初めての人にとっては非常に手間がかかる作業となっており、何度も役所へ出向かなければならないことも少なくありません。
また、代表者が司法書士や会計士の資格を所有していなければ所有権移転や確定申告について専門家に依頼することになり、毎年費用が発生してしまいます。
このように法人化することで個人事業主の時にはなかったコストが発生することもありますので、注意が必要です。
さらに、法人化してしまうと不動産を将来売却する場合は所有期間によって損をすることがあります。
不動産を売却した場合は譲渡所得税が発生し所有期間によって税率が異なり、5年以下の場合は短期譲渡所得の39.63%が適用され5年を超えると長期譲渡所得の20.315%が適用されます。
しかしこの税率は法人では適用されず、どのタイミングで売却しても税率は約22%です。
つまり、所有期間が5年を超える不動産を売却する場合は法人化の方が不利になるといえ、デメリットといえます。
不動産投資で法人化するデメリットについては以下の記事に詳しく記載していますので、チェックしてください。
【不動産投資で法人化するメリットとは?方法や注意点を徹底解説】
【参考サイト:No.3208 長期譲渡所得の税額の計算|国税庁】
不動産投資で法人化する流れ
不動産投資で法人化する具体的な流れは、次のようになります。
スムーズに準備ができるよう、あらかじめ確認しておくことをおすすめします。
社名の決定
社名は原則自由に決めることができますが、特殊記号や社会通念上問題のある社名にすることはできませんので、注意が必要です。
また、既に存在する会社に似すぎている場合や「〇〇銀行」など特定の法人でしか使えない社名も登録できない可能性が高いです。
そのため社名はいくつか候補をピックアップし、事前に問題ないかインターネットで検索することをおすすめします。
所在地の決定
所在地は原則どこでも決めることができ、自宅やレンタルオフィスでも問題ありません。
なお、法人住民税は所在地のある自治体に納税することになりますので、地域貢献したいエリアに所在地を設定するという人もいます。
資本金の決定
資本金は会社が事業を運営するうえで元手となる資金となっており、1円から設定することができます。
資本金は1円から設定できますが、資本金が多い会社は社会的信用が高くなり金融機関の融資が好条件になりやすいので、10万円から1,000万円の間で設定されることが多いです。
ただし資本金が1億円を超えると法人税の税率が一律23.2%となり、収入によっては不利な税率になることもありますので注意が必要です。
発起人の決定
発起人とは会社設立のためのアイデアや資金を出す人のことで、約款の作成や設立手続きを担います。
人数に制限はないため複数人を発起人にすることができますが、複数の場合はトラブル防止のために役割分担や出資額を事前に決めておくことが必要です。
取締役の決定
法人化するうえで株式会社を設立する場合、取締役を必ず1名以上専任しなければなりません。
取締役は会社の業務執行に関する意思決定を行う重要な役割を担っており、重要なポジションです。
そのため複数人で法人化する場合は取締役の役割を全員が理解し、専任することが大切です。
なお、合同会社の場合は取締役を専任する必要はなく、代表社員が意思決定を行います。
会社実印(会社代表印)の作成
会社実印は法人登記や重要な契約書に使用される会社の正式な印鑑です。
印鑑証明書の発行や、不動産売買、融資などで利用する必要があり、不正防止のためにも使用者は限定しておくことをおすすめします。
必要書類の作成
法人化するために必要な書類は次の通りです。
非常に複雑な内容の書類もありますが、司法書士や自治体のサポートを受けながら作成することでスムーズに準備を進めることができます。
定款:法人の組織や運営に関する根本的な規則を定めた書類となっており、公証人の認証が必要。
登記申請書:法務局に登記を申請する書類のことで、不動産登記と会社登記の2種類がある。
就任承諾書:会社役員に就任したことを証明する書類。所定のフォーマットはないが専任日と会社名、発起人と本人の署名押印が一般的。
印鑑届出書:会社の実印を法務局に登録するために提出する書類。
資本金払込証明書:資本金が支払われたことを証明する書類。通帳のコピーを用意するのが一般的。
取締役の印鑑証明書:取締役個人の印鑑証明書。取得から3ヶ月以内の書類が有効となる。
登録免許税分の収入印紙を貼付した台紙:印紙を貼付する台紙。所定のフォーマットはないがA4の白紙を用意するケースが多い。
必要書類の提出
必要書類の準備が完了すると公証人に約款の原本に押印してもらい、認証を受けるために公証役場へ行きます。
そして認証を受ければ法務局に会社設立の申請と会社実印の登録を行い、受理されると数週間で登記が完了となります。
法人化の流れについては以下の記事に詳しく記載されていますので、チェックしてください。
【不動産投資で法人化するメリットとは?方法や注意点を徹底解説】
まとめ
不動産投資を個人事業主から法人に切り替えることで税率が有利になったり様々な節税方法を活用できるようになりますが、タイミングを間違えると大きな損失に繋がることもあります。
法人化のタイミングは年間所得がポイントとなっており、年収が900万円もしくは専業大家なら330万円を超えると法人化した方が税率は安くなる可能性が高いです。
そのため確定申告の際には年間所得がどのくらいになっているのかをチェックしておくことで、法人化の目安を知ることができます。
また、法人化するためには多くの必要書類を準備する必要があり、さらに手続きも複雑です。
慣れていなければ何度も公証役場や法務局に出向かなければなりませんので、どのような手続きが必要になるのかなるべく早い段階で調べておくことをおすすめします。




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