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事業用不動産の買い換え特例とは?適用要件や計算方法、最新改正情報まで

空家ベース編集部

事業用の不動産を売却し、新しい物件を購入することは経営において重要なポイントといえますが、その際に支払うべき税金は高額になるため簡単に買換えできないという問題があります。
そこで国税庁からは「事業用資産の買換え特例」という制度が公開されており、適用要件を満たすことができれば非常に効果の大きい制度となっています。
ただしこの特例にはメリットだけでなくデメリットもありますので、注意が必要です。
この記事では事業用資産の買換え特例の特徴とメリット・デメリット、具体的な計算方法について解説します。

不動産売却については、こちらの記事も参考にしてください。
投資用築古物件の不動産売却はどこがいい?失敗しないための業者選びと売却術

この記事で分かること

  • 事業用資産の買換え特例の概要
  • 事業用資産の買換え特例を利用するメリット・デメリット
  • 事業用資産の買換え特例の計算方法

空家ベースは、空き家を売りたい人と買いたい人をつなぐプラットフォームです。空き家投資用物件を探すときはもちろん、売却時にもご活用いただけます。「次の物件購入の資金にするために売却したいが売れない」「負担が大きくなってきて手放したいが買い手が見つからない」、など空き家の売却でお困りの際はぜひお問い合わせください。

事業用資産の買換え特例とは

国税庁は事業用資産の買換え特例について次のように定めています。
個人が、事業の用に供している特定の地域内にある土地建物等(譲渡資産)を譲渡して、一定期間内に特定の地域内にある土地建物等の特定の資産(買換資産)を取得し、その取得の日から1年以内にその買換資産を事業の用に供したときは、一定の要件のもと、譲渡益の一部に対する課税を将来に繰り延べることができます。

この特例を利用することで譲渡価額よりも買い換えた取得価額の方が多い場合は本来課税される譲渡税を最大80%削減し、収入金額として計算することができます。
不動産を売却して新しく購入しやすくなるため事業用不動産の買い替えを検討している人は必ず検討しておきたい特例ですが、メリットだけでなくデメリットもあるため仕組みを正しく理解しておくことが大切です。
なお、令和5年の法改正により東京都の特別区の区域から地域再生法の集中地域以外の地域への本店等の移転を伴う買換えの圧縮割合が90%に引き上げとなり、地域再生法の集中地域以外の地域から東京都の特別区の区域への本店等の移転を伴う買換えの圧縮割合が60%に引き下げとなりました。
【参考サイト:No.3405 事業用の資産を買い換えたときの特例|国税庁
【参考サイト:4 特定の資産の買換えの場合等の課税 の特例の見直し

買換え特例のメリット

この章では買換え特例を利用することのメリットについて、解説します。
この特例は不動産の売却時に発生する税金を繰越することができる効果があるため、買換え資産を選びやすくなります。
そのため税負担が大きいことが判明しているケースにおいて大きなメリットとなりますので、この章で解説するポイントをチェックしてください。

売却時の譲渡所得税を抑えられる

譲渡所得税とは不動産の売却益に対して課税される税金のことで、所有期間によって税率が変わるという特徴があります。
所有期間が5年以内であれば39.63%、5年を超えると20.315%が税率となり、課税額に掛け合わせることで計算することができます。
また、課税額は譲渡費用から取得費を差し引くことで計算することが可能です。
不動産売却において譲渡所得税は手残り額に大きな影響を与えてしまいますが、事業用資産の買換え特例を活用することで税負担を減らすことができ、売主にとって大きなメリットとなります。

新しい不動産購入資金として活用できる

本来支払うべき税金を購入資金に上乗せすることができますので、物件の選択肢が増えることになります。
特に不動産投資用の物件を購入する場合はより利回りの高い物件を選択することができますので、投資効果を高められるという点も魅力だといえます。

買換え特例のデメリットと注意点

買換え特例は譲渡所得税を抑えられるというメリットがありますが、デメリットと注意点もあります。
実際にこの特例を利用して買換えを実施したものの、結果的に全体の税負担が増えてしまったという失敗事例も少なくありません。
このような失敗をしないためにも、この章で解説するデメリットをしっかり理解しておくことが大切です。

税金が免除されるわけではない

買換え特例は売却時の譲渡所得税を最大80%削減することができますが、削減した価額は免税になったわけではなく、購入する不動産の譲渡資産に繰り延べされてしまいます。
つまり新しく購入した不動産を将来売却する場合、削減した分だけ譲渡所得税が高くなってしまうことになります。
たとえば所有している不動産を売却して3,000万円の課税額が発生した場合、特例によって600万円まで圧縮することができますが、購入した不動産を売却する際には繰延した2,400万円が課税額に対して加算されます。
事業計画に組み込まれている場合は問題ありませんが、将来不動産価値が変化したり事業自体を相続した相続人が事情を把握しきれていない場合、事業に大きな影響を及ぼすことも考えられます。
このことからも、売却予定の不動産と購入予定の不動産に価格差が大きい場合は注意が必要です。

短期譲渡の課税が発生するケースがある

譲渡所得税には短期譲渡と長期譲渡があり、所有期間が5年未満か5年を超えるかで決まります。
短期譲渡になった場合は39.63%が税率となり、長期譲渡の20.315%よりも税率が高くなってしまいます。
不動産の所有期間が10年を超えると14.21%まで税率を抑えられることから、売却するタイミングは慎重に判断することをおすすめします。

減価償却費が少なくなるため、法人税や所得税などほかの税金が増える

減価償却費は不動産や動産における会計上の資産価値となっており、所有している不動産の減価償却が残っている場合は注意が必要です。
たとえば減価償却費が1,000万円残っている不動産を売却した場合、この特例を利用することで200万円まで価値が圧縮されてしまいます。
その結果譲渡所得税は抑えられますが、一方で減価償却費が少なくなり法人税や所得税が増加してしまうケースもあります。
こうした税金の計算は非常に複雑なため、税理士や会計士に相談しながら判断することをおすすめします。

事業用資産の買換え特例の要件

事業用資産の買換え特例には売却する資産と購入する資産それぞれに要件が設定されており、どちらもクリアすることで制度を利用できるようになります。
そのため買換えの契約を締結するまでに要件を正しく理解し、問題なくクリアできることを確認したうえで進めることが重要です。
この章では事業用資産の買換え特例を利用するための要件について、詳しく解説します。

売却する資産(譲渡資産)の要件

売却する資産の要件は、次の通りです。

  • 譲渡の日の属する年の1月1日において所有期間が10年を超えている
  • 国内にある事業用の土地等や建物または構築物である
  • 事業用資産である
  • 令和8年3月31日までに譲渡すること

購入する資産(買換資産)の要件

購入する資産の要件は、次の通りです。

  • 土地等の面積が300㎡以上
  • 買換資産が土地等であるときは、取得する土地等の面積が原則として譲渡した土地等の面積の5倍以内
  • 取得した日から1年以内に事業に使用
  • 買換資産の土地等が以下のいずれかであること
  • 事務所、工場、作業場、研究所、営業所、店舗、倉庫、住宅その他これらに類する施設の敷地の用に供されるもの
  • 買換資産の土地等が、建物または構築物の敷地の用に供されていない駐車場
  • 東京都の23区、大阪市などの既成市街地等内にある事業所

課税の繰り延べ割合の計算方法

買換えの特例を利用することで譲渡所得税の一部を購入した不動産の譲渡費用に繰り上げることができますが、譲渡資産の譲渡価額と買換資産の取得価額によって計算方法が異なります。
場合によっては想定外の支出が発生することもありますので、正しく理解しておくことをおすすめします。

譲渡資産の譲渡価額が買換資産の取得価額より高い場合

譲渡価額>取得価額となる場合、計算式は次のようになります。

譲渡価格 -取得価格×80%=収入金額
(譲渡資産の取得費 + 譲渡費用)×(収入金額 ÷譲渡価格)=必要経費
収入金額-必要経費=譲渡所得課税額

譲渡資産の譲渡価額が買換資産の取得価額以下の場合

譲渡価額≦取得価額となる場合、計算式は次のようになります。

譲渡価格×20%=収入金額
(譲渡資産の取得費+ 譲渡費用)×20%=必要経費
収入金額-必要経費=譲渡所得課税額

令和6年4月1日以降は届出が必要に

同一年内に譲渡資産の譲渡及び買換資産の取得をし、特定の事業用資産の買換えの特例を受ける際には届出が必要になります。
譲渡資産の譲渡の日又は買換資産の取得の日のいずれか早い日を含む三月期間の提出が義務付けられており、具体的なスケジュールは次のようになります。

譲渡の日(先行取得の場合は取得の日) 提出期限
1月1日から3月31日まで 5月末日
4月1日から6月30日まで 8月末日
7月1日から9月30日まで 11月末日
10月1日から12月31日まで 翌年2月末日

なお、届出書は作成後にPDFファイルに変換し、e-Taxソフトで提出する必要がありますので、注意してください。
【参考サイト:A4-8 特定の事業用資産の買換えの特例の適用に関する届出|国税庁

まとめ

事業用不動産の売却は一般住宅よりも譲渡所得税の節税特例が少なく、売却したくてもできないケースも少なくありません。
そのため売却後に買換えを検討しているのであれば事業用不動産の買換え特例を利用するのがポイントといえ、不動産投資を事業化している人におすすめの制度です。
ただし買換え特例はメリットだけでなくデメリットもありますので、利用する際には慎重に判断する必要があります。
利用した結果法人税や所得税が増加したというケースもありますので、適用要件含め税理士や会計士にあらかじめ相談し、失敗のない経営判断をすることが重要といえます。

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