法人が不動産売却をする際の税金計算:個人との違いや節税方法も解説
不動産売却において税負担は大きなポイントとなりますが、法人と個人では税金の種類や課税の仕組みが違いますので、注意が必要です。
具体的な計算式や内容を理解しないまま法人化し、大きな損失が発生してしまうケースも少なくありません。
このような失敗をしないためにも、不動産売却に関連する税金について詳しくチェックしておくことが大切です。
また法人は節税に使える方法が多く、利用できる税金対策を把握しておくことも重要です。
この記事では不動産売却における法人と個人の税金について、解説します。
よくある質問も紹介しますので、法人化を検討している人は参考にしてください。
- 不動産売却の課税対象における個人と法人の違い
- 法人が不動産を売却した際にかかる税金の種類
- 個人が不動産を売却した際にかかる税金の種類
- 法人と個人のどちらにもかかる税金
- 法人が活用できる不動産売却時の節税方法
- よくある質問(FAQ)
不動産売却の税金は個人と法人で異なる
不動産を売却した場合、個人と法人のどちらも収入から必要経費を差し引いた所得部分に税金が課せられますが収入の範囲が異なります。
たとえば個人の場合では不動産の譲渡益は給与所得に合算されることなく、分離課税として処理されます。
一方、法人の場合は他の収入と合算して課税されるという仕組みになっています。
このような違いを押さえておくことで想定外の納税を防ぐことができます。
不動産売却益の計上と経費の考え方
個人の場合、不動産の売却価格が収入で売却時と購入時の諸費用と不動産の購入費用が経費です。
また、個人は不動産の売却益を譲渡所得として扱いますが、これ以外にも給与所得や事業所得、雑所得、一時所得など細かく分類されています。
その点、法人は所得の分類分けはなく全体の所得として一括計算され、経費も合算して計算されます。
法人税は定率課税であるため、個人のような細かな所得段階がありません。
このように不動産を売却した際の計上方法と経費の考え方が、大きな相違点です。
なお、不動産売却について国税庁からは節税に使える特別控除が多数公開されていますが、個人が対象となっている制度がほとんどです。
法人が売主の場合は使えない制度が多いので、注意が必要です。
損益通算ができる場合・できない場合
損益通算とは、各種所得金額の計算上生じた損失のうち一定の対象について他の所得から控除できる仕組みのことです。
不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得が対象となっており、たとえば3億円の不動産所得と2億円の事業所得損失が発生した場合は1億円を課税対象とすることが可能です。
ただし個人の場合は譲渡所得のみ損失通算することができ、他の所得から控除することはできません。
不動産Aと不動産Bの譲渡所得は損益通算できますが不動産Aと給与所得は損益通算できませんので、慎重に計算する必要があります。
【参考サイト:No.2250 損益通算|国税庁】
法人が不動産売却するとかかる主な税金の種類
法人が不動産売却する際には「法人税」「法人住民税」「法人事業税と特別法人事業税」「地方法人税」が課税され、まとめて「法人税等」と呼ばれます。
「土地等の譲渡益に対する追加課税」という税金もありますが、企業が保有する土地の取引を活性化するために2026年3月31日まで停止されています。
そのためこの章では「土地等の譲渡益に対する追加課税」を除く税金について詳しく解説しますので、参考にしてください。
【参考サイト:土地等の譲渡益に対する追加課税制度(重課)の停止期限の延長】
法人税
法人税は法人の所得全般に課せられる税金となっており、不動産を売却した場合も対象です。
また、売却理由が事業目的でなくても課税されるという特徴があり、収益から経費を差し引いた額が課税額となります。
収益は不動産の売買価格が該当し、経費は売却にかかった諸費用が該当するため課税額は次の計算式で算出できます。
たとえば売買価格が3,000万円で経費が2,000万円だった場合、1,000万円が課税額です。
法人税の税率は課税額や法人の資本金、法人形態によって次のように異なります。
資本金1億円以下で年間の譲渡益が800万円を超える:23.2%
資本金1億円以下で年間の譲渡益が800万円以下の適用除外事業者:19%
上記以外の法人:15%
適用除外事業者とは過去3年間の所得が15億円を超える法人のことで、国税庁により判定されます。
【参考サイト:No.5759 法人税の税率|国税庁】
法人住民税
法人の事業所がある自治体に対し法人住民税を支払う必要があり、「都道府県民税」と「市町村民税」の2種類があります。
法人住民税は法人税割と均等割をそれぞれ計算する必要があり、法人税割は法人税額に対して都道府県民税1%、市町村民税6%の税率を掛け合わせて計算することができますが、均等割は法人の資本金や従業員、自治体によって税率が異なります。
また、法人税割は課税所得がない場合は課税されませんとなりますが均等割は必ず課税されるため、注意が必要です。
法人事業税と特別法人事業税
法人事業税は法人の事業に対して課税される税金のことで、法人税は国税であるのに対し法人事業税は地方税です。
課税所得と税率を掛け合わせて計算しますが、税率は法人形態や事業開始年度によって変動しますので、事業開始前に最寄りの自治体で確認することをおすすめします。
特別法人事業税は令和元年10月1日以後に開始する事業年度の申告に適用され、基準法人所得割額もしくは基準法人収入割額が課税額となります。
どちらの事業税も収支がプラスであれば課税され、マイナスであれば免税となる特徴があります。
地方法人税
地方法人税は自治体による税収の格差を埋めることを目的とした税金となっており、2014年に新設されました。
税額は法人税に税率10.3%を掛け合わせて計算することができ、納税された税金は国から自治体に分配されます。
そのため地方法人税は地方税ではなく国税という扱いになります。
なお、地方法人税は法人事業税の一部を分離して国に納めることになりますので、トータルの税負担は変わりません。
個人が不動産売却するとかかる主な税金の種類
個人で不動産を売却する場合、譲渡所得税がかかります。
不動産の売却価格に応じて課税額が増えてしまう税金となっていますので、不動産売却を検討する人は必ずチェックしておくべきポイントです。
この章では譲渡所得税の課税額を計算する方法と税率の決まり方について、解説します。
譲渡所得税
不動産を売却して発生した利益は「譲渡所得」という扱いになり、譲渡価額から諸費用を差し引いた価額に対して税率を掛け合わせたのが譲渡所得税です。
売却益が課税対象となり、購入した金額よりも下回る金額で売却するなど利益が発生しなければ課税されませんが、プラスになれば支払わなければならない税金となります。
そのため、不動産を売却する際には売却だけでなく購入時の金額や税額についても調べておくことが重要です。
譲渡所得税の税率は所有期間によって異なり、5年以内であれば短期譲渡所得、5年を超える場合は長期譲渡所得となり税率は次の通りです。
長期譲渡所得:20.315%
たとえば課税額5,000万円の場合、税額は短期譲渡だと約1,982万円、長期譲渡所得だと約1,016万円となります。
譲渡所得税は不動産の引き渡し日の翌年に確定申告を行い納税額が計算されるため、支払いタイミングも翌年になるという注意点があります。
なお、居住用財産の売却や相続取得した不動産の売却については特別控除があり、適用できれば節税になるケースも多いです。
【参考サイト:No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例|国税庁】
【参考サイト:No.3302 マイホームを売ったときの特例|国税庁】
法人でも個人でも共通の税金
売主が法人、個人のどちらであっても発生する税金として「消費税」がありますが、全てのケースで課税されるわけではありません。
この章で詳しく解説しますので、参考にしてください。
消費税
消費税は商品の販売やサービスの提供に対してかかる税金として位置づけされており、非課税として定められている取引もあり、不動産取引においては土地の譲渡や貸付は対象となりません。
ただし土地の売却を仲介業者に依頼した場合は仲介手数料が発生し、消費税が課税されますので注意が必要です。
なお、仲介手数料の上限は国土交通省によって定められており、計算方法は次の通りです。
売却価格が200万円を超え400万円以下:売却価格×4%+2万円+消費税
売却価格が400万円を超える:売却価格×3%+6万円+消費税
800万円以下の低廉な戸建や土地を売却する場合:30万円+消費税
印紙税
不動産売買契約書には印紙を貼付する必要があり、契約時に印紙を用意するのが一般的です。
印紙の代金は売買代金によって次のように異なりますので、慌てて準備することがないよう事前に確認しておくことをおすすめします。
売買価格 | 印紙代 |
---|---|
10万円を超え50万円以下 | 200円 |
50万円を超え100万円以下 | 500円 |
100万円を超え500万円以下 | 1,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 5,000円 |
1,000万円を超え5,000万円以下 | 10,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 30,000円 |
1億円を超え5億円以下 | 60,000円 |
5億円を超え10億円以下 | 160,000円 |
10億円を超え50億円以下 | 320,000円 |
50億円を超える | 480,000円 |
【引用サイト:不動産売買契約書の印紙税の軽減措置|国税庁】
なお、印紙は契約書の原本に貼付するためコピーには課税されません(貼付不要)。
登録免許税
所有権移転登記を行う際、課税額の2%を登録免許税として所有権移転登記のタイミングで納税しなければなりません。
課税額は固定資産税評価額の百円未満を切り落とした金額となり、譲渡した物件の売却価格とは異なりますので、注意が必要です。
地域によっては買主が全額負担したり売主と折半するケースもありますので、売却を依頼する不動産会社にあらかじめ確認しておくことをおすすめします。
なお、令和8年3月31日までに所有権移転登記した場合は税率が1.5%となります。
【参考サイト:No.7191 登録免許税の税額表|国税庁】
法人が活用できる不動産売却時の節税方法
不動産の売却益が多ければ多いほど税金も高くなるため、節税できる方法は必ず知っておく必要があります。
特に不動産投資を法人として継続する場合は1案件あたりの納税額を抑えることでトータルの利回りが良くなり、収支を安定させられるようになります。
この章では法人が活用できる代表的な節税方法を紹介します。
新たに不動産を購入する
不動産を売却した同年に新しく不動産を購入することで利益を相殺し、課税所得を圧縮する方法があります。
この方法であれば節税と同時に資産価値のある不動産を所有できますので、法人全体としても資産を担保することができます。
ただし購入する不動産が安いと利益を相殺できずに課税されることもありますので、物件の選定は重要です。
さらに不動産の購入費用は減価償却費となり、償却期間で案分した額を計上するため一括計上できないことになります。
その結果、思ったよりも節税できなかったというケースもありますので、慎重に判断することをおすすめします。
特別控除や特例を活用する
特別控除や特例は個人向けの内容が多く法人が利用できる制度は少ないですが、以下の特例は利用できる可能性があります。
そのため事前に適用要件を満たしているか確認することが大切です。
利用できる制度 | 内容 |
---|---|
特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の所得の特別控除 | 土地の区画整理事業などに土地を売却し、一定の要件を満たす場合に利用できる制度。2,000万円までの控除を受けられる。 |
特定の長期所有土地等の所得の特別控除 | 平成21年および平成22年に取得した長期所有土地等を売却した場合、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えている場合であれば1,000万円までの控除を受けられる。 |
収用換地等の場合の所得の特別控除 | 収用権が認められている公共事業のために不動産売却をした場合、5,000万円までの控除を受けられる。 |
【参考サイト:措置法第34条《特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除》関係|国税庁】
【参考サイト:No.5451 平成21年及び平成22年に取得した長期所有土地等の1,000万円特別控除|国税庁】
【参考サイト:第65条の2 《収用換地等の場合の所得の特別控除》関係|国税庁】
役員退職金の支給で利益を調整する
役員に支払う退職金は経費として扱うことができますので、一時的に報酬を増やすことで節税することは可能です。
ただし社会保険料や住民税が増えてしまいますので、慎重に判断する必要があります。
さらに退職金には退職所得という税金が発生し、次の計算で算出することができます。
退職所得控除額は40万円×勤続年数で計算することができ、勤続年数が20年を超えている場合は800万円+70万円×(勤続年数-20年)で計算することができます。
この控除により退職所得が発生しないケースもありますが、報酬を増額しすぎてしまうと控除額を超えてしまうこともあり、注意が必要です。
設備投資や繰越欠損金を利用する
パソコンや複合機の購入や社用車の購入、オフィスのリフォーム、オンラインツールの導入といった設備投資は経費として計上できますので、節税効果が見込まれます。
減価償却による案分計上となるため購入費用全てを経費として扱うことはできませんが、社内環境を整えると同時に節税できますので、おすすめの方法です。
また、中小企業投資促進税制を利用することで設備投資の一定額を特別償却することができます。
この制度は平成10年6月1日から令和7年3月31日までの期間内で一定の条件を満たす取得費用の一定額を特別償却または税額控除できる制度となっており、特別償却なら取得価額の30%を普通償却限度額に加算することができ、税額控除なら7%を控除できます。
このように日常業務に必要な設備の購入を節税に組み込む方法は節税効果も高いことから、検討しておきたい方法といえます。
繰越欠損金とは翌年度に繰り越しされた損失のことで、損益通算のように毎年節税できるという点がメリットです。
たとえば法人の売上が3,000万円の会社が9,000万円の損失が発生する不動産取引を行った場合、6,000万円の赤字になってしまいますが2年目は6,000万円を超える売り上げがなければ利益がないとみなされ、法人税等の一部が課税されません。
さらに3年前以降も損失をカバーできなければ繰越欠損金を継続することができ、最大10年間利用可能です。
このように、法人は特別控除や特例が少ない代わりに個人では利用できない節税方法があります。
【参考サイト:No.5433 中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)|国税庁】
注意点:法人が無償譲渡または低廉な価格で譲渡すると税金が生じる
不動産売却で発生した売却益は法人税等を増加させる原因となることから、翌年移行の経営に大きな影響を与えてしまうこともあります。
そのため役員に無償譲渡したり相場よりも極端に安い価額で売却し法人税を安く抑えるという会社もありますが、余計に税金が増えてしまうこともありますので注意が必要です。
極端に安い不動産取引の例として譲渡価格が時価の50%未満というケースがあり、低額譲渡として扱われます。
低額譲渡は譲渡を受ける側が法人なのか個人なのかで法人税の計算方法が異なり、次のようになります。
売主側は時価で売却したとみなし、実際の売却額との差額は損益不算入として扱う。買主側は差額を受贈益として扱う。
法人から個人の場合:売主側は時価で売却したとみなし、実際の売却額との差額は損益不算入または給与として扱う。買主側は差額を受贈益として扱い、一時所得もしくは給与所得として税金計算する。
損益不算入とは経費に含めることができない損失という意味で、損益不算入が多いと法人税等が増加してしまいます。
また、受贈益は無償や低額で法人が資産を譲り受けた際に使用する収益勘定となり、特別利益として法人税の課税対象です。
つまり、低額譲渡を行った場合は売主側と買主側のどちらも増税になるリスクがあるといえますので、法人が不動産を売却する際には売却額を慎重に判断する必要があります。
よくある質問(FAQ)
この章では法人が不動産売却をする際によくある質問を紹介します。
法人が不動産売却した場合の損失はどのように扱われる?
法人は損失を区分することなくトータルで計算するため、損失の計算はしやすいという特徴があります。
個人の場合は譲渡所得税の特別控除や特例が用意されていますが、法人は不動産の新規購入や設備投資、繰越欠損金の利用、役員退職金に充当するなど節税方法は多岐にわたります。
法人の損失はこのような節税方法に該当することが多いことから、利益の損失は必ずしも負債とはいえないことが分かります。
宗教法人や学校法人の場合も課税される?
宗教法人や学校法人などは公益法人となり、収益事業を除く所得は全て法人税等の課税外です。
そのため法人税等が課されない形で売却できることもありますが、非課税となるのは法人税等であり消費税や印紙税、登録免許税など法人税等以外の税金は課税されます。
なお、宗教法人が不動産を売却する際には責任役員の議決や総代の許可、檀家への説明などが必要となり、税金以外の費用が発生することも多いため注意が必要です。
個人名義と法人名義、どちらが節税をしやすい?
個人名義の場合、不動産売却における譲渡所得税は39.63%、20.315%、14.21%のどれかになります。
一方、法人の場合は30%前後になるため、税率が低いのは個人名義です。
ただし個人名義では譲渡所得は譲渡所得としか損益通算することができず、不動産売却がマイナスになっても節税することができません。
その点法人は全ての収支を合算して計算することができますので、不動産売却がマイナスになった場合は経費が増え、法人税等の課税額が減ることになります。
そのため収益がマイナスになる場合は法人名義、単発かつ売却益が発生する場合は個人名義の方が節税効果は高いことが分かります。
まとめ
不動産売却をする際の税金において個人と法人では考え方が異なり、税金の種類も個人は譲渡所得だけですが法人は複数あります。
ただし個人と法人のどちらにも共通して課税される税金もあり、不動産の売却価格や売却益によっては税額が高額になってしまうこともあります。
そのため個人であっても法人であっても、節税に利用できる特別控除や特例、制度を調べておくことが大切です。
特に法人は新しい不動産の購入や設備投資、繰越欠損金の利用など様々な対策ができますので、最適な収支計画になるように情報収集することがポイントです。

空家ベース編集部です。空家と書いて「ソライエ」と読みます。Twitter・Instagram・公式LINEなどでも物件情報を随時配信しています。空き家を買って再生したい方、他では売れないと言われてしまった空き家をご所有の方はぜひご相談ください!