セットバックした土地は誰のもの?所有権・固定資産税・注意点を徹底解説
日本の古い住宅地では、建物を建て替えようとすると「セットバック」が必要になるケースが少なくありません。
セットバックとは、敷地の一部を道路として提供するよう求められる制度です。
所有しているにもかかわらず、自由に使えない土地が発生するという点に戸惑う方も少なくありません。
中でも、「セットバックした土地は誰のものになるのか?」という疑問は、所有権の行方や固定資産税の課税、建築制限や近隣トラブルなどに直結する、実務にも直結する見逃せないテーマです。
実際には、見た目は道路でも、法的には私有地のままという扱いになることが多く、正しく理解していないと、思わぬ不利益を被る可能性もあります。
本記事では、セットバックの定義や対象となる土地の条件から、所有権の扱い・税制上の非課税ルール・売買時の注意点・トラブル回避策まで、実務に役立つ情報をわかりやすく解説します。
- セットバックの仕組みと、必要な土地の条件
- セットバックした土地の所有権と固定資産税の取り扱い
- 売却・建て替え時に知っておくべきリスクや注意点
- 私道負担との違いや、よくあるトラブルの回避方法
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セットバックとは?
セットバックとは、不動産を取得・活用するうえで避けて通れない法的なルールの一つです。
特に、古い住宅街や狭小地を中心に「セットバックが必要な土地」は多く存在します。
セットバックの制度を正しく理解しておかないと、建築計画や売買時に思わぬ制約を受ける可能性があります。
ここでは、セットバックの基本的な仕組みと、どのような土地に必要となるのかを詳しく解説します。
セットバックの定義と目的
セットバックとは、建物を新築・増改築する際に、敷地の一部を道路として後退させることを指します。
セットバックの制度は、建築基準法第42条第2項に基づき、幅員(ふくいん)4メートル未満の道路に接する敷地に適用されます。
具体的には、敷地が接している道路の幅が4メートルに満たない場合、道路の中心線から2メートルのラインまで敷地を後退させる必要があるとされています。
制度の目的は、災害時の避難や救急車・消防車の通行を確保するための道路整備です。
古くからある住宅地では、2項道路(幅員4メートル未満で建築基準法の道路とみなされる私道など)に面した物件が多く、セットバックが必要となるケースが多数あります。
【参考:建築基準法 | e-Gov 法令検索】
セットバックが必要となる土地の条件
セットバックの対象となる土地には、以下のような条件があります。
- 敷地が接する道路の幅が4メートル未満
- 接道している道路が「建築基準法上の道路」として認定されている(主に2項道路)
- 新たに建物を建てる、あるいは大規模な増改築を行う場合
- 自治体の道路管理方針や特例により、個別の判断が必要なケースもある
重要なのは、セットバックの判断は建築確認申請時に行政が行うため、事前の相談や確認が必須という点です。
「後から知って慌てる」という事態を避けるためにも、不動産購入や建築計画の初期段階で専門家や自治体と連携することが大切です。
セットバックした土地は誰のものになる?
セットバックによって道路として使われる部分の土地は、誰の所有になるのでしょうか?
「他人のものになるのか?」「税金はどうなるのか?」といった疑問は、多くの所有者や投資家にとって気になるポイントです。
ここでは、セットバック後の土地の所有権の取り扱い、固定資産税の課税有無、建ぺい率などの法的制約について、実例を交えながらわかりやすく解説します。
所有権は個人のまま残るのが基本
セットバックによって後退した土地は、見た目には道路の一部となりますが、法的には所有者個人の私有地として扱われます。
セットバック=所有権の移転と誤解されることもありますが、これは正しくありません。
寄付などの手続きを経ない限り、土地は所有者の私有地として残ります。
ただし、建物や塀の設置は禁止され、通行の妨げとなる利用も制限されるため、自由に使うことはできず、土地としての資産価値も制限を受けることになります。
非課税になる固定資産税
後退部分の土地は、実質的に道路として機能していることから、固定資産税が非課税となるケースが一般的です。
固定資産税が非課税となるのは、各自治体の課税要綱にもとづき、一定の条件を満たした土地が「公共用地扱い」とされ、課税対象から除外される仕組みがあるためです。
ただし、自治体によっては自動適用ではなく申請が必要な場合もあるため注意が必要です。
評価対象から外れていても、所有者が申告を行わなければ課税されてしまうこともあるため、必ず確認しましょう。
【参考:道路非課税の申告をお願いしています|固定資産税・都市計画税(土地・家屋)|東京都主税局】
建ぺい率・容積率への影響
セットバックが求められる土地では、敷地面積が小さくなることで、建ぺい率や容積率にも影響が出る可能性があります。
建ぺい率・容積率は、「敷地面積」に対する建物の大きさや延床面積の割合を示す都市計画上の制限です。
建ぺい率とは、敷地面積に対して建築面積(建物が地面と接している部分)が占める割合、容積率とは、敷地面積に対する建物の延べ床面積の割合を指します。
セットバックによって敷地面積が減少すると、これらの制限も厳しくなり、建てられる建物の規模が小さくなるため、建築計画に大きな影響を及ぼします。
たとえば、以下のような影響が考えられます。
項目 | 通常の土地 | セットバック後の土地 |
---|---|---|
敷地面積 | 100㎡ | 90㎡(10㎡後退) |
建ぺい率 60% | 60㎡まで建築可 | 54㎡までに制限される |
容積率 150% | 延床150㎡まで可 | 延床135㎡までに制限される |
このように、セットバックは建築計画全体に影響を及ぼすため、土地購入前の調査が非常に重要です。
【参考:建築基準法制度概要集】
売買・建て替え時に知っておくべきこと
セットバックが必要な土地は、通常の土地と比べて、売却や建て替え時に特有の制約やコストが発生します。
知らずに購入・売却を進めると、「建物が思ったより建てられない」「思ったより安くしか売れない」といった問題が起こる可能性もあります。
ここでは、セットバックが土地の売買価格や建築計画にどのような影響を与えるのかを解説します。あわせて、混同されやすい「私道負担」との違いや、近隣トラブルを防ぐための注意点についても整理してお伝えします。
売買価格への影響と注意点
セットバックが必要な土地は、「有効宅地面積が狭くなる」「建築の自由度が下がる」といった理由から、同じ広さの土地でも市場価格が安くなる傾向があります。
以下のような影響があります。
- 建物の設計が制限される(建ぺい率・容積率の制限)
- 後退部分に構造物を建てられない
- 買主側での追加負担(測量・確認申請時の対応など)
さらに、不動産広告や売買契約書では、「セットバック要」「要後退」などの表記がされ、瑕疵ではなく「現状有姿」として取引されるのが一般的です。
買主が建築を前提としている場合、セットバックが必要であることを把握していないと、購入後に建築不可となるリスクがあります。
売主としては、建築可能範囲や行政との協議の内容を、事前に明確に提示しておくことが求められます。
私道負担とセットバックの違い
セットバックと混同されがちな概念に「私道負担(しどうふたん)」があります。
どちらも土地の一部に建物が建てられないという点では共通していますが、性質と扱いはまったく異なります。
項目 | セットバック | 私道負担 |
---|---|---|
原因 | 建築基準法による道路後退義務(道路幅員4m未満) | 通行確保や接道義務を満たすための私道使用 |
所有権 | 原則として個人の所有地(寄付しない限り移転しない) | 共有持分や通行承諾付きが一般的 |
固定資産税 | 非課税になる場合が多い(自治体による) | 課税対象となるケースが多い |
不動産表記 | 「要セットバック」「SB」など | 「私道負担あり」「私道持分あり」など |
使用の自由度 | 道路機能を妨げる用途不可(構造物の設置・占有は禁止) | 通行確保を条件に、共有者間の合意である程度使用可能 |
セットバックは公共性を確保するための義務的な制度である一方、私道負担は土地の立地・通行事情により個別に設定される調整的な負担です。
どちらも不動産の資産価値や利用可能面積に影響を与えるため、購入時には「どのような形で土地の一部が制限されているか」をしっかり確認することが重要です。
近隣トラブルを防ぐためのポイント
セットバックを行う際、後退部分が「見た目は道路」になることで、近隣住民との認識のずれやトラブルが生じることがあります。
たとえば以下のようなトラブルが考えられます。
- 隣人が「道路だから自由に使っていい」と誤認して、駐車・放置をする
- 所有者が土地の端に構造物を置いたことで「通行の妨げだ」と指摘される
- 境界トラブルが起きやすくなる(特に再建築時)
これらを防ぐためには、以下のポイントを意識する必要があります。
- 境界確認や確定測量を実施し、行政や隣地所有者との認識を一致させる
- 必要に応じて、セットバック部分の舗装・整備を行政と調整する
- 土地購入前に「セットバック済みかどうか」「隣地との協議が済んでいるか」を確認する
「道路として提供しているが私有地である」という認識の共有が、近隣トラブル防止のカギとなります。
よくある質問
セットバックに関しては、専門的な法律や税制が関わるため、実際に土地を所有している方や購入を検討している方から、さまざまな疑問が寄せられます。
ここでは、特に多くの方が悩む4つの質問に対し、具体的かつわかりやすく回答します。
事前に疑問を解消しておくことで、トラブル回避やスムーズな不動産取引につながります。
セットバックした土地は私有地ですか?
はい、セットバックした土地は原則として私有地のままです。
セットバックとは、建築基準法に基づいて敷地の一部を道路として後退させる制度ですが、
後退部分の土地は、特別な手続きをしない限り所有者にそのまま帰属します。
ただし、以下のような制限があります。
- 構造物の設置は禁止(門・塀・建物など)
- 通行の妨げとなる利用は不可
- 「道路とみなす」扱いを受ける
こうした制限が課されるため、実態としては「使えない私有地」となり、土地の自由度が制限されます。
セットバックした土地を自治体に寄付できますか?
セットバックによって道路として使用される部分の土地について、自治体へ寄付できる可能性はあります。
ただし、自治体ごとに対応は異なり、、条件を満たすことで寄付が可能となる場合がある一方で、原則として寄付を受け付けていない自治体も存在します。
たとえば、神奈川県横浜市では「横浜市道の認定、廃止及び区域変更基準」などの条件を満たす必要があることが明記されています。
一方、愛知県安城市では「狭あい道路拡幅整備協議」において、私道に接する後退用地の寄付は受け付けていないことが明記されています。
【参考:私道の寄附(公道移管)・ 道路敷地の払下げ 横浜市】
【参考:安城市/狭あい道路拡幅整備】
また、以下のような条件を満たす場合には、個別判断により寄付が認められる可能性があります。
寄付が認められるための主な条件 | 内容の説明 |
---|---|
公共性の認定 | 道路拡幅や防災機能向上など、公益性があると自治体に判断される必要がある |
測量・整備の完了 | 寄付対象部分が境界確定済みかつ整備済みで、トラブルのリスクがない状態である |
隣接地との整合性 | 接道状況や隣接する土地との間で物理的・法的に支障がない |
費用は所有者負担 | 測量・登記・境界確認など、寄付にかかる諸費用は原則として寄付者が負担する |
なお、寄付が受け入れられた場合でも、受理までに時間がかかることがあり、すべてのケースでスムーズに進むとは限りません。
セットバック部分を寄付したい場合は、まず所轄の市区町村の道路管理課や都市整備課に事前相談することが不可欠です。
セットバックの管理責任は誰にある?
セットバックによって後退した土地の管理責任は、原則として所有者にあります。
たとえ見た目が道路の一部となっていても、所有権が自治体などに移っていない限り、清掃・除草・不法投棄対策などの管理は土地所有者が行う必要があります。
ただし、以下のような例外があります。
・寄付などにより、土地の所有権が自治体へ移転している場合
・都市計画事業等により、道路整備が完了し、管理主体が明確に変更されている場合
このように、セットバック部分は「他人の通行のために使われる私有地」という特殊な位置づけとなります。
境界の明示や立ち入り制限の確認、日常的な管理を怠らないことがトラブル防止に不可欠です。
セットバックした土地は分筆しない方がいいですか?
セットバック部分の土地については、原則として分筆しないまま管理するケースが多くなっています。
建築基準法上の「道路とみなす部分」として扱われるため、建物を建てられず、土地としての独立した利用価値が低いからです。
ただし、以下のようなケースでは分筆を検討することも可能です。
・不動産売買や相続の場面で、評価・登記整理が必要な場合
・自治体に土地の寄付をする際に、境界の明確化が求められる場合
・税務処理上の資産区分を整理したいとき
ただし、分筆にはメリットもデメリットもあるため、状況に応じた判断が必要です。
以下に、主な利点と注意点を整理しました。
メリット | デメリット |
---|---|
建築用地と道路用地を登記簿上で明確に区別できる | 測量や登記に関わる費用が発生する |
固定資産税や資産評価の区分がしやすくなる | 将来的に買主から敬遠される可能性がある |
寄付や活用を前提とした資産整理が行いやすくなる | 自治体によっては分筆を推奨していない、あるいは認めない場合がある |
分筆の可否や必要性は、税理士・土地家屋調査士・不動産業者などの専門家に相談したうえで判断するのが最も確実です。
まとめ
セットバックは、狭あい道路に面する土地を所有・購入・建て替えするうえで非常に重要な制度です。
後退によって土地の一部が使用制限を受けるにもかかわらず、所有権はそのまま残るため、税金や管理の面で見落としがちな負担が発生する可能性があります。
特に注意すべき点は以下のとおりです。
・セットバック部分の所有権は個人に残るが、建築や利用には制限がある
・多くの自治体で固定資産税は非課税扱いだが、申請が必要な場合もある
・有効宅地面積が減るため、建物の規模や資産価値に影響を与える
・私道負担との違いや近隣との境界トラブルにも注意が必要
これらを踏まえ、購入前の情報収集や行政との事前確認がとても重要になります。
また、相続や売却時には、建築制限や資産評価を正しく理解したうえで、状況に応じた適切な判断が大切です。
空き家を活用した投資に興味がある方は、まずは情報収集から始めてみませんか。
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